野口正見の「5S活動による食品工場改善」
よりよい食品工場をつくる5S活動エピソード −6−
掃除は人を成長させる――とんかつチェーン店のエピソード

 長崎県を中心に九州、中国地方で53店舗(1997年当時)展開していたあるとんかつ専門店は従業員の顧客へのていねいなサービスに特徴があった。
 急に雨が降ったときには、車で来店した客に傘を持って出迎える、温かい日にはまず冷たいお茶、料理を出すときには温かいお茶を出す、年配客には柔らかいヒレカツを薦める――と、きめ細かなサービスがなされていた。
 これらはチェーン店の基本であるマニュアルで実行しているのではなく、従業員個人がその場の判断で臨機応変に行なっていたのがポイント。その原点になっているのが“掃除”である。
 社長の1日は毎朝7時の掃除から始まる。特に念入りに掃除する場所はトイレである。社長が自らするトイレ掃除に社員は影響され、“掃除運動”が広がった。
 本社や各地の店舗でも、強制されないのに、社員は始業時間前に出勤し、トイレや周辺の道路を掃除する。「掃除は店を綺麗にするためというより、それを通して自分自身や社員を、人間として成長させる」と社長は説明している。
 人間として成長した社員はお客様へのサービスの質が高くなる。「品質管理は人の質管理である」と若いころ教えられ、従業員に愛情を持って大切に接するよう、先輩から指導されたことが思い浮かんだ――と社長は振り返っている。

 このとんかつ店のエピソードを知ったのは、筆者がちょうど食肉・冷食メーカーの社長に就任したときだった。筆者の会社でも、この掃除に対する姿勢を早速取り入れ、敷地の草取りを率先して実行するきっかけとなった。