食品工場の製造ラインに欠かせない金属異物検知器。これまで難しかったアルミ箔包装や塩分の影響を受けない、鉄やステンレスの検出装置の開発に成功した。近年は韓国や中国に導入が広がっているという。隅井社長は日本のユーザーに対して「検出する異物イメージを明確にして、装置を最大限に活かしてほしい」と求めている。
隅井社長
――磁場応用を基本に分離・選別・検知・除去技術を開発、商品化しているが、中でもアルミ包装内金属異物検知器は主力であり、食品業界との関係が深い。
隅井 アルミ包装は金属包装であり、包材に渦電流を発生させることから、検知器が金属異物と判定し誤検知します。包材のみでなく、内容物が醤油やだし汁のような塩分濃度の高い食品は、電気の流れ易い電解質となって食品そのものに渦電流が流れ、金属異物と判定し同様に誤検知します。現状でも、検査時にドライ商品であるか、ウェット商品であるかで感度を変える必要があることや、アルミ包材とそれ以外の製品とで、ライン変更が生じることが懸念となっています。最悪の場合、無検査工程が存在する商品も出回っています。
――アルミ包装したものを金属検出器にかけたいというユーザーの声に応えたわけだ。従来機種との違いは?
隅井 根本が違います。従来機種は、金属異物に流れる渦電流を検出するシステムですが、TOK機種は金属異物による磁場の乱れを検出するシステムです。アルミ包装や高濃度塩分による電磁ノイズ(渦電流)を発生させず、磁場の乱れを検出するシステムで、既存の金属検出装置では難しかったアルミ包装内や高濃度塩分溶液中の鉄やステンレスを検出します。
また、従来機種では難しかったオーステナイト系ステンレス小片については、マグネットブースタを搭載して、ステンレスの磁場の乱れを増幅させます。これらの技術開発により、鉄のみでなく、小さなステンレス異物をターゲットにすることができるようになりました。
――「磁場」がキーワードとなりそうだ。
隅井 低周波微弱電流磁界の理解が必要でしょう。この磁場は、アルミ包装や高濃度塩分食品には、渦電流がほとんど生じない程度の低い周波数帯域と微弱電流をセンサーに流して形成します。そこに鉄やステンレスの強磁性体が侵入した場合は、この磁場形成を大きく乱すため、異物として検知できる仕組みとなっています。もちろん、高濃度塩分溶液のような非磁性体は磁場に影響を及ぼさないので磁場の乱れはありません。
――従来機が「電磁波」をベースにしていたのに対し、TOK機は「磁界型」にしたわけだ。開発に当たって苦労もあったのでは?
隅井 電波の影響はそれほど受けないのですが、開発した当初は振動の影響は深刻なものがありました。食品工場以外では半導体業界と長くお付き合いしていますが、こちらの工場内はしっかりと整理された環境です。しかし、食品工場は様々な機械があり、例えばシュリンク包装機は強い電流が流れていたり、金属検知機設置場所の床下や天井に動力配線ダクト設備があると機械的振動低周波の電磁振動が非常に大きく影響します。今ではノイズ処理やソフトに改良を加えることで克服することができました。
――ユーザーも喜んだでしょう。
隅井 ある菓子メーカーのガムの製造ラインで重宝されました。こちらではガムの包装にアルミを使用していますが、異物の検出に何か有効な手立てはないかと探していました。工場長自ら機械のテストに足を運んでいただき、最終的にはグループの他の5工場にも導入に繋がりました。試運転した際、スタッフ全員に拍手喝采で迎え入れていただき、とてもうれしかったですね。
――隅井社長は会社を立ち上げる前、大学の研究者だったが。
隅井 若い研究者には新しいものにどんどん挑戦してほしい。新しいことにはリスクが伴うのは当然であり、それを管理者が恐れていては何も始まりませんし、研究者はいつまで経っても伸びません。だから日本の技術は海外に流出してしまいます。特に人が流出し、中国に引き抜かれています。今の中国には日本人がたくさんいて、いい待遇でのびのびと研究できています。
――中国といえば、アジアについてはどう考えている?
隅井 近年は日本国内よりも、中国や韓国の引き合いがあります。韓国は検出器に関してはまだ出遅れているところもあり、人口は日本の半分以下ですが、導入は好感触、先の見通しが非常に明るい市場だと見込んでいます。
――韓国には積極的に仕掛けたのか。
隅井 例えば、韓国海苔は油が多いため、アルミ包装が広く利用されています。もともと韓国の教授と面識があり、私たちの検出器には「可能性がある」と後押ししてくれたので、積極的に売り込むことができました。韓国での成功を中国でも活かせたらいいですね。
――海外戦略も楽しみだが、今後の見通しは。
隅井 海外の話をしましたが、日本国内でも今まで以上に金検の持ち味を啓発していきます。例えば、X線検出機で100%検出できなかったものが、TOKの金検で40〜60%検出できたことがあり、それを評価していただいたことがあります。ユーザーが何を検出したいかをターゲットがはっきりしているところには受け入れられ、グループ内の横展開にも繋がっています。
もし、「ガラスだけを検出したい」のならば、TOKの金検では検出できません。異物検査機に万能はありません、検査機の特徴をつかみ、費用対効果から選択をしていただきたい。HACCPやISO、トレサビリティーが浸透してきましたが、言葉だけが先行してしまうのではなく、これらを実践していれば、異物は入らないはずです。生産機械は各種の部品の組み合わせです。部品脱落、破損、疲労・・・など不可抗力な事が多いのも事実です。
検査機械を有効に効率よく使い、どう活かすかが、我々人間の問題だと考えます。よりよい製造現場を実現するために、ともに学ぶ姿勢をユーザーと築いていきたいと考えています。
(すみい・つとむ)昭和15年(1940年)中国大連生まれ。昭和30年帰国。職業能力開発大学校卒業。東京職業能力短期大学校機械系の教官職を経て、平成11年(1999年)1月19日、トック・エンジニアリングを創業、現在に至る。