富士山の清冽な水を使って「おかゆ」を生産
モノづくり、おいしさづくりへのこだわりを象徴
キユーピー 富士吉田工場 ＞上＜
キユーピーの富士吉田工場（＝富士吉田キユーピー(株)、山梨県富士吉田市、大久保寛社長）は富士山のすそ野から湧き出る清冽な水を利用し、「アヲハタ白がゆ」などのレトルト食品と業務用マヨネーズなどを生産している。
富士山の広大な自然の中にあるという環境に加え、キユーピーグループのモノづくり、おいしさづくりに対するこだわりと技術力を改めて感じさせる工場でもある。
富士吉田工場の外観
立地は富士山の北側、富士箱根伊豆国立公園の工業専用地域にある。
標高930ｍ、富士山の地質の中を流れる伏流水（地下水）を、敷地内にある深さ150ｍの井戸で採水し、使っている。地下水はバナジウムを豊富に含んでおり、非常にまろやかな軟水でおいしい。これを使って主力商品の１つ、「アヲハタ白がゆ」などレトルトがゆを生産している。
アヲハタの白がゆは1990年（平成２年）４月に発売開始したが、当初は東京府中の中河原工場で生産していた。この当時から富士山の水に着目し、富士山ろくで採取した水を中河原まで運んで生産した、というこだわり。富士吉田工場では2007年６月からおかゆの生産を開始している。
手造りおかゆの製法を再現
おかゆレトルトの生産工程
おかゆは研いだコメを１時間程度水に浸け、土鍋で強火で炊く。煮立ったらかき混ぜ、フタを少しずらして弱火で約50分煮る。出来たら５分程蒸らす。仕上がるまでに２時間半もかかるおかゆが熱湯で温めるだけで手軽に、しかもおいしく味わえるのがポイント。
アヲハタのおかゆは手造り製法の再現にこだわっている。生のコメと富士山の銘水をパウチに入れ、加熱殺菌する。パウチが土鍋代わり。調理加熱（炊く）と同時に殺菌も行うことで、熱がコメに与えるダメージを極力抑えている。これにより粒残りが良く、コメの風味良く仕上がる。
コメは「富士山の水に一番合う」（同社）というコシヒカリ。生産品目は白、梅、卵、鮭の４品。卵は割卵状態で搬入する。鮭は冷凍原料を使用している。
2003年12月から「ふっくら真空仕込み製法」を導入した。蒸気（ピュアスチーム）をパウチの中に入れて酸素を排出する脱気技術。これにより「パウチの中で酸素の影響が限りなく少なくなった」（同社）。パウチのまま加熱して食べるが、最近では加熱せず、そのまま食べる夏向きの利用も提案している。
蒸気も富士山の水。
軟Ｘ線検査で異物チェック
コメと具材の梅、卵、鮭などの原料をチェック。パウチにコメ、具材と水を充てんし、軟Ｘ線検査装置で異物を検査する。この後、レトルト殺菌器で加熱、殺菌。製品は箱詰めし、搬送、積み付け、出荷する。
アヲハタがゆは発売から四半世紀を経過したが、東日本大震災が発生した2011年から13年までが「備蓄需要も含め、大きく伸びた」（同社）。
レトルトがゆは体にいい米飯メニューとして、今後は高齢者や介護食需要が伸びると見ており、おいしさとともに、未加熱でも食べられる簡便さ、様々な具材を加えて食べる楽しさ、賞味期限450日の保存性をアピールしていく。
マスタードを万能調味料に
富士吉田工場ではディジョンマスタードも生産している。黒・黄がらしの種を粉砕、ろ過して作った調整マスタード。フランスのディジョン地方で確立されたペースト状のマスタード。
キユーピーではマスタードを香辛料ではなく“万能調味料”として利用を促す。
富士山の水、30年かけて湧水、バナジウムを含む
大久保社長
富士山の水がおいしいのには明確な理由がある。
富士山は20〜70万年前の噴火でできた愛鷹火山、小御岳火山の上に、１万2000〜８万年前の噴火でできた古富士火山が重なり、その上に、頂上をなす新富士火山が１万2000年前の噴火でできた。
キユーピー富士吉田工場の敷地は古富士火山の上、標高930ｍに位置する。古富士火山の溶岩層と表層の玄武岩地層の間には水を通さない不透水層があり、富士山に降った雨はこの層の上を伏流水として流れている。玄武岩地層はバナジウムを豊富に含んでいる。
富士吉田工場は地下150ｍの深井戸を敷地内に持っており、ここから採水している。
富士山の地下をいま流れている水は、専門機関の分析の結果、約30年前に降った雨水とわかっている。富士山の地下水量は約24億ｔ、東京ドームの約2000個分という巨大なもの。
富士山という自然の巨大フィルターで磨かれ、地下150ｍからくみ上げた水は水温9.5℃と冷たい。しかも採水地は富士箱根伊豆国立公園の中にあり、ゴルフ場や農地開発による水の汚染の心配がない。
富士山の水はとてもまろやかな軟水（硬度21〜22）。１Ｌ当たり、カルシウム6.4�咫▲淵肇螢Ε�4.6�咫▲泪哀優轡Ε�2.6�咫▲�リウム0.7�咫�さらに微量成分としてバナジウムを0.7�售泙鵑任い襦�
この水は日本人の繊細な味覚に合うと言われ、飲料水だけでなく、ウィスキー・焼酎の水割り、お茶、コーヒー、料理、幼児のミルクのお湯などに適している。
この水に注目し、キユーピーは1990年、中河原工場（東京）で生産開始した「アヲハタ白がゆ」の最初から、工場に富士山の水を運搬して使っている。
敷地内にキユーピー人形の巨大なオブジェ
キユーピー富士吉田工場は地球規模のオブジェ（物体）を敷地内に持っている。
工場棟の屋上に出て、南を向くと、正面に霊峰富士の山がそびえている。工場の敷地が標高930ｍ。富士山にかかる雲が、手を伸ばせば届く距離に見える。
目を地上に転ずると、敷地内の緑地帯の中に、なにやら意味ありげな模様が見える。見下ろす角度を変えると、キユーピー人形の顔の部分を木枠で型取ったものであることがわかる。
天地、左右は数10ｍもありそう。キユーピーグループが常に失わない楽しさ、遊び心で表した、という。
人工衛星の撮影画像では判別が難しいかもしれないが「Ｇｏｏｇｌｅ マップに出ればわかるかも」と三宅峰三郎キユーピー社長も遊び心を失わない。
工場敷地内には本格的な体育館もあり、グループ内で利用している、という。
富士山のふもとの国立公園内にある食品工場。自然が周囲を覆っている。（次号へ続く）
キユーピー人形のマスコット絵