難しい製菓技術を定番に
飯田製作所 飯田一社長

 銘菓作りを半世紀以上支えてきた機械メーカーの飯田製作所。消費者のし好の変化に即座に反応。機械化が難しい技術に果敢に挑戦することで、定番で主力の機械となり、業界で存在感を示している。今後はアジア市場に視野を入れるという。

      飯田社長

 ――昨年、食品機械業界は他の製造業と比べたら大きな落ち込みはないものの、どこも「厳しい」という声を聞く。製菓機械はどうでしたか?
 飯田 製菓機械についても同じ傾向ですね。設備投資が鈍っています。新規の投資は少なく、修理で何とか持ちこたえたいとするユーザーが多くなっています。決まりかけていた商談が次回に繰り越されるケースも増えています。20年、30年経った機械は更新する時期に来ているのですが、ユーザーにとっても難しい経営環境を強いられています。

 ――御社にとっても厳しい。
 飯田 最近、ある洋菓子メーカーから修理の依頼を受けたのですが、当社が出した見積もりでは最低でも3日かかるものを、何とかして2日で仕上げてほしいと懇願されました。ラインを止められないのと、経費的にも厳しいということのようです。
 しかし採算は合わないのですが、依頼を受けました。目の前にいるユーザーが困っているのを見過ごすわけにはいきません。関係を大切にして次につなげていきたいと判断しました。

 ――業界が元気になってほしい。何か明るい兆しが欲しいところ。
 飯田 あるユーザーの新年会で社長が社員に訓示していました。それは「今年1年の仕事は10カ月で仕上げなさい。残りの2カ月は新商品の開発、新規ユーザーの開拓に全力を注ぎなさい」というものでした。今年は仕事が減るだろうと暗示しているものであり、普通に1年を過ごしていては何も意味がない。だからこそ新しいものに目を向けなさい、ということです。的を得ていますね。

 ――御社は和菓子の機械も洋菓子の機械も手がけている。
 飯田 当社の強みは一般的に流通する機械も、ユーザー独自の製菓に対応するオーダーメイド品も両方手がけていることです。

 ――特殊なオーダーメイドの機械は数が出ない。ユーザーの使用年数がロングランになる?
 飯田 ロングランになればいいですけどね。実際は採算の合わないケースもあります。しかし、ユーザーに満足してもらいたいし、投げ出すわけにもいきません。新しいものに挑戦した技術は後に活かされます。難しいことに挑むことで「イイダ」の機械として活躍します。

 ――それが御社の定番の、主力の機械となる。
 飯田 最近もこのようなケースがありました。それまでに4社の機械メーカーが挑戦して断念した案件が当社に回ってきました。特殊な油を使う菓子なのですが、生地作りの機械から担当することとなりました。仕上げるのに1年かかりましたが、成功しました。最近はユーザーが製品のノウハウを明かしたがらない傾向がありますので、難しいものがあります。
また、納品までは2年が限度ですね。スピード重視です。その間で消費者のし好も変わるかもしれませんから。

 ――製パン製菓機械工業会はアジア展開を呼びかけている。御社はどう向かい合う?
 飯田 今までは国内で何とかやってきましたが、今後はそうとは限りません。海外も真剣に考えたいと思います。実は20年前に中国市場に売り出したことがあり、成果をあげました。クッキーの製造ラインが受け入れられ、ミキサーやオーブン、トンネルオーブンなど一連の機器の納入が数多く決まりました。
 その一度きりで中国市場から手を引きましたが、また視野に入れるときがきたようです。中国の人たちはとても熱心です。機械に対する知識も大変優秀。機械の仕組みなど日本人が3日かかるものを、1日で修得します。成長を続ける中国のエネルギーを感じます。

 ――今後の方針は?
 飯田 難しい時代になりましたが、絶えず技術力を高めていきたいですね。技術は嘘をつきません。また、会社の姿勢も問われます。利益はすぐに出にくいかもしれないが、真摯に応じ、次につなげる仕事を続けていきたいと思います。スピード重視の時代なので、いつまで仕上げるかを明確にし、貢献していきたいですね。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2010年2月17日号掲載