食品工場の受注好調、時間を生み出す建築設計に強み
中設エンジ�蝓ー更毀魄�エンジニアリング本部長 喜多道一氏
喜多執行役員
食品工場の設計施工実績が多い中設エンジ（名古屋市）はコロナ禍でも受注件数を減らしていない。巣ごもり需要の拡大で売上げ好調な量販店のセントラルキッチンや、冷凍食品、レトルト食品の工場案件が増えているという。「コンカレントエンジニアリング」と呼ぶ設計プロセスの手法に磨きをかけ、自動化・省人化の提案や工期短縮を武器に先々の案件獲得にも動き出している。
４月１日付けで執行役員に昇格した喜多道一エンジニアリング本部長にマーケットの動向や、これからの食品工場に求められる建築設計の考え方について聞いた。
――コロナ禍で設備投資の計画が止まったという話は各方面から聞かれる。
喜多 当社もコロナ前から進めていた、いくつもの菓子メーカーからの大型案件が中止や延期を余儀なくされました。主力のお土産品が早い時期から感染拡大の影響を受け、売上げが落ち込んだことが主な理由です。
一方で巣ごもり需要の拡大を背景に惣菜・弁当・冷凍食品の分野は好調です。チェーンスーパーからの、セントラルキッチン案件の受注がいくつかあります。冷凍食品やレトルト食品などのロングライフ商品も好調で、冷凍の米飯工場やレトルトパック工場の設計施工が進行中です。
――コロナによる会社の業績への影響は？
喜多 （大型案件の中止等の影響で）2021年３月期（2020年度）は目標未達となりましたが、受注残や新たな引合いも多くあり、営業担当者はすでに2022年度以降の案件獲得に動いています。
――2022年度も新工場の案件は惣菜・弁当や冷凍食品が多い？
喜多 現在もスーパーの設備投資の動きは減速していませんし、冷凍食品の工場増設は今後も増えるとみています。最近は冷凍弁当の宅配市場が拡大しており、新興企業が早々に工場を増設したいというケースさえあります。冷凍スイーツやレトルト食品のＯＥＭ工場も売上げは好調です。こうした傾向は当分続くでしょう。
コロナ禍で移動できない、人が集まらない
――コロナ禍で工場の建築設計に対するニーズは変わった？
喜多 人手不足は以前から深刻な課題でしたが、コロナ禍による「人が移動できない」影響で、人員確保がさらに難しくなりました。自動化・省人化が急務となっており、当社はすべての受注案件で自動化・省人化を提案しています。
ただ、自動化・省人化のニーズは人手不足だけでなく、若い働き手の人材教育にも理由があるようです。
――どういうこと？
喜多 最近はお客さまから「若い人に元気がない」と言われます。若い人にやる気が感じられず、教育のしがいが感じられない。それなら初期投資をしてでも機械化を進めた方が良いと、最初から自動化・省人化を導入した案件が実際にありました。
――自動化・省人化を進めようとすると、工場全体のプランニングも変わってくる？
喜多 設計段階から人が集まるエリアと完全無人（機械化）のエリアを明確に区分します。機械化は、たとえばカップラーメンのような同じ品種を大量生産するラインには向いていても、弁当盛付けなどの多品種小ロットで品種の切替えが多いラインではどうしても人手を要するし、自動化が困難です。
――その場合の解決策は？
喜多 各工程をつなぐ部分に自動化・省人化の技術を積極的に採用することで、解決を図ります。そのうえで、製造ラインに最適な建物を設計します。
当社は工場の内側（生産機械）から設計することを重要視しており、製造工程や工場内の輸送方法、従業員の歩行距離など様々な要素を検討して建屋のレイアウトを変えたり、作業室の位置を変更したりします。
食品工場は時代や環境の変化に対応した設計が求められており、当社もそうしたニーズに応えられるよう常に設計力を高める努力を続けています。
デジタル化の課題はコストバランス
――コロナ禍でデジタル化が加速すると言われるが、食品工場でも広がるだろうか。
喜多 製造現場ではＭＥＳ（製造実行システム）や需要予測システムが連携し、今後は需要予測に基づいて各設備機器が稼働する仕組みになるでしょう。機械自体のデジタル化も、日進月歩で発展しています。ただ、現段階では当社のメイン顧客である弁当・惣菜の製造現場は、コストバランスを大きな理由として最先端技術の機械設備を導入するのは難しいと思います。
一方で製造管理と労務管理についてはデジタル化が可能です。コロナ対策のための入退場管理や勤怠管理、トレーサビリティを含めたすべての生産情報がつながり、工場の全体最適化が進むと考えられます。
「時間」を生み出し、顧客のために使う
――総合エンジニアリング企業としての強みはどこにある？
喜多 クライアントからの要求事項は�／�品製造、�∪源叉ヾ鐇瀏�、�７�物と大きく３つあり、すべての要求事項を社内で同時に対応できることが、当社の最大の強みです。
２年前にエンジニアリング本部から独立した「生産システム本部」が工場内部を専門に設計しています。
当社の食品工場設計は、工場内部のシステム設計をまず固め、それによって建物の大きさを決めるという手順を踏みます。一般的にシステム設計の会社から設計書が提出されるまでは、建屋の設計を行うことができません。
しかし、我々はエンジニアリング本部と生産システム本部が社内にあることから、連携しながら同時並行で進められ、様々なパターンで検討を重ねることができます。
さらに、施工部門にも計画段階からプロジェクトに参加してもらうことで、着工時期を早めることが可能です。
「コンカレントエンジニアリング（ＣＥ）」と呼ぶ手法です。これによって「時間」が生まれ、工期短縮や設計案の熟成に時間をあてるなど、お客さまのために時間を有効に使えます。同業他社にはない強みであると自負しています。
――今後、会社の成長発展に向けて自身がどう関わるのか聞きたい。
喜多 自己組織の目標達成にとらわれていては、責任を果たせません。「次世代の中設エンジ構築」が自分の役割であると捉え、全営業拠点や全部署間での技術、知識の橋渡しに貢献します。
技術の継承や教育、社内標準化、ＣＥ独自技術の保有に注力することが最大責務と考えています。
（きた・みちかず）1964年東京都生まれ。学卒後、工務店、設計事務所等で店舗や住宅等の建築設計・施工に従事。設計事務所在籍時に中央設備エンジニアリング（現中設エンジ）に出向し、複数の焼成パン工場の建設に関わったことが縁で2000年正式入社。東京技術部長代理、エンジニアリング本部エンジニアリング統括部長、エンジニアリング本部長を経て2021年４月執行役員エンジニアリング本部長。周囲から「仕事が趣味」と言われることもあるが、釣りや音楽鑑賞、演奏、ドライブと実は多趣味。１級建築施工管理技士、二級惣菜管理士、ＨＡＣＣＰコーディネーター。