手袋除菌のニッチ市場を開拓
紫外線装置で食中毒を防止
ワークソリューション 代表取締役 荻原真二氏
荻原社長
除菌装置メーカーの�螢錙璽�ソリューション（長野県辰野町）は衛生手袋を紫外線で除菌する「ソルパット」シリーズを食品工場などに提案している。衛生管理の中でも手袋除菌というニッチ分野に着目し、先発優位で他社の追随を許さない。コロナ禍による追い風もあり、導入台数を着実に伸ばしている。荻原社長は「ロボット化が声高に言われるが、食品業界は人手が必要。つまり菌を持ち込むリスクがある」と語り、手袋除菌装置の需要拡大が続くことに期待感を示す。
――紫外線を使った手袋除菌装置とは？
荻原 当社が2015年に開発した手袋除菌装置の「ソルパット」シリーズは紫外線Ｃ波（ＵＶＣ）を手袋に３〜５秒間照射することで、ノロウイルスをはじめ大腸菌やＯ−157、黄色ブドウ球菌などの食中毒原因菌を除菌・不活化させます。ニトリルやラテックスなどの手袋を装着したまま短時間で除菌するため、作業効率を落とすことなく二次汚染を防ぐことができます。
――紫外線が菌やウイルスを不活化させるメカニズムは？
荻原 菌やウイルスの細胞内に吸収された紫外線がＤＮＡ、ＲＮＡ(核酸)に作用することで複製ができなくなり、不活化に至ります。「ソルパット」に搭載する殺菌ランプは紫外線Ｃ波の中でも除菌効果（吸収性）が最も高い波長の254nm（ナノメートル）UVランプを採用しています。
「ソルパット」は１秒間に紫外線を9000μワット照射します。日本食品分析センターの試験では大腸菌や黄色ブドウ球菌、ノロウイルスは３秒間、枯草菌（芽胞）は４秒間で不活化することが確認できました。
「ソルパット」の使い方は装置内に手を挿入するだけ。センサーが感知し、自動で紫外線を
照射する。照射終了は音と表示で知らせる
――ノロウイルスによる食中毒の事故は食品業界でも多く発生している。
荻原 大腸菌やＯ−157、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌は国の衛生対策やＨＡＣＣＰの義務付けなどもあり、この20年間で大きく減少しましたが、ノロウイルスは減っていません。感染経路がわかりにくいために対策を取りづらいこと、不顕性感染者（症状が出ていない感染者）が多いことも原因として考えられます。
――不顕性感染者は症状が出ていないのに感染を引き起こす？
荻原 便から排出されます。トイレットペーパーを何十枚束にしてもウイルスは通過し、手に浮着してしまう。しっかり手洗いをしたつもりでも、手や指の傷口だけでなくシワ、指紋にも残ります。感染した素手で新しい手袋を装着するため、手袋にも伝播してしまう。ノロウイルスは感染力が非常に強く、10個くらいでも感染する場合があると言われています。手袋を除菌しないと衛生管理の意味がないということです。
手袋の交換回数を減らせば、廃棄量が減る
――「ソルパット」の使い方は？
荻原 肌が露出しないように手袋を装着し、装置内に手を挿入するだけです。センサーが感知し、自動で紫外線を照射します。指定時間が経過すると音と表示で照射終了を知らせます。
――紫外線に対する安全性は？
荻原 「ソルパット」であれば、紫外線を１日600回照射しても問題がないことをJIS規格に基づいた試験で確認しています。ニトリルやラテックス手袋の紫外線遮蔽率は99.98％です。とはいえ、紫外線は肌に影響を及ぼしますので、当社は素手での使用は禁止し、腕には保護カバーをつけることを説明しています。
――これまでの導入実績は？
荻原 大手食品メーカーをはじめ約300カ所、550台以上になります。５〜６年前は「手袋を除菌する必要があるのか」とよく言われました。そのたびに手袋は菌に汚染されるリスクが高いことや増殖しやすいことを説明し、ようやく除菌の必要性が認識されるようになりました。さらに、コロナ禍で引き合いが一気に増えました。
導入先の１つ、シルバーライフでは「ソルパット」の活用で、外国人労働者を含め従業員の
衛生意識が高まったという
――コロナ感染拡大の時、多くの食品工場が手袋の確保に苦労した。
荻原 当時は手袋の価格が高騰し、手袋の使用枚数を減らさざるを得ないという理由で「ソルパット」を導入いただいたケースも多くありました。
一方で最近はＳＤＧｓの観点から使い捨て手袋の廃棄が問題になっています。１日に何度も交換するため廃棄量が多く、企業にとってはコスト高につながります。あるコンビニベンダーでは１人あたり１日10回ほど交換しているそうです。
使い捨てとはいえ物資の１つです。しっかり衛生管理したうえで大事に使うほうが今の時代に沿っていると思います。交換が必要な休憩時やトイレの後を除けば、少なくとも３〜４回は削減できるでしょう。
菌逸脱数を改善、製品廃棄の減少に貢献
――導入先の１つ、弁当製造のシルバーライフは菌逸脱数が激減したそう。
荻原 手洗いやアルコール消毒では菌逸脱数が改善されず、基準値を超えたときは弁当すべてを廃棄処理していたそうです。原因は人の持ち込みか手袋だろうと考え、「ソルパット」を導入したところ劇的に改善しました。やはり原因は手袋だったようで、弁当の廃棄回数が減少し、フードロス削減につながりました。
ほかにも導入効果はあります。老舗和菓子製造の赤福では素手と手袋を装着した状態で手洗いを２回行いますが、手袋の手洗いには約50秒間かけていました。このため、従業員が１日に費やす手洗い時間は延べ約130分かかっていました。「ソルパット」導入後は手袋の除菌がわずか５秒間で済み、延べ時間を約13分間に短縮できました。
――市場拡大の見通しは？
荻原 食品工場に限定してしまうと成長の余地が限られてしまうため、外食チェーンや介護施設、歯科医院など半袖のユニフォームが多い業種業態に向けた新製品を開発中です。従来製品同様、紫外線を使いますが、半袖でも安全に手袋を除菌できる装置です。今年度中の製品化をめざしています。
食品業界は自動化やロボット化が進むとされていますが、本格的な社会実装はまだ先の話。当面は人手が必要です。ということは人が菌を持ち込む可能性はあります。菌やウイルスの侵入をブロックする手袋除菌装置の需要は今後も高まるとみています。