【論説】
水素時代の到来へ（上）
官民あげて社会実装を加速
国内外で気候変動対策の動きが広がる中、脱炭素化の切り札として「水素」が注目を集めているが、食品工場との相性はどうなのか。新時代を読み解くキーワードの１つとして、水素活用の可能性に迫った。 （ＦＥＮ編集長大場隆広）
水素は空気中の酸素と反応させることで発電するほか、燃焼すれば熱エネルギーを発生する。水や石油、天然ガス、廃プラスチック、バイオマスなど様々な原料からつくることができ、発電時に出るのは水だけでＣＯ２は一切排出しない。
最近は太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った水電解で水素をつくったり（グリーン水素）、化石燃料から水素をつくる際に発生するＣＯ２を回収して地下に貯蔵したりする技術開発も進められており、ＣＯ２フリー水素として期待を集める。
水素の安定供給や調達コスト、インフラ整備、需要拡大など、実用化までにはいくつもの課題があるが、政府は昨年策定した新たな「エネルギー基本計画」で社会実装を加速するとした。海外からの輸入を含めた水素サプライチェーンの構築や水素製造技術の高度化などを挙げる。
調達コストについては化石燃料と同程度の水準まで引き下げるとして、現在の１Ｎ㎥（ノルマルリューベ＝気体の量）あたり100円を2030年は30円、2050年までに20円をめざす。供給量は現在の年間200万トンから2030年に300万トン、2050年に２千万トンに拡大するとした。
コンビニは水素燃料で走行実証
日本は海外に先行して早くから水素に着目しており、官民あげての実証実験が始まっている。物流現場ではコンビニ大手３社が水素を燃料とした「ＦＣ（燃料電池）小型トラック」の走行実証を行っているほか、福岡県は県内の運送事業者と組んでパンや弁当、生鮮品などを運ぶ輸送実証を昨年実施した。
セブン‐イレブン・ジャパンはトヨタ自動車が開発した水素を燃料とした配送車の実験を2019年春から都内で実施していたが、2021年８月からは新型車両での実験を栃木県でスタートしている。
配送車にはトヨタの燃料電池車「ＭＩＲＡＩ（ミライ）」のＦＣユニットを搭載している。水素貯蔵量は約10�圓如∩�行距離は約260km。2019年春からの実験では手作りの試作車を使用していたが、2021年８月からは新型車両に切り替えて第２フェーズに入っている。
産業分野では三浦工業が水素だけを燃料に使った貫流蒸気ボイラを2017年に日本で初めて開発した。パナソニックは小規模な商業施設などの需要に適した発電出力５kWの純水素型（水素を直接供給）の燃料電池を昨年秋に発売した。
トヨタの燃料電池車「ＭＩＲＡＩ」のＦＣユニットを搭載したＦＣ小型トラック
（セブン‐イレブン・ジャパン）
こうした動きは2022年も続くとみられるが、食品工場との相性はどうなのか。食品工場は加熱や冷却、乾燥、洗浄工程があり、エネルギーの消費量が相当多い。大量の熱量を水素からつくった電気だけでまかなうのは難しく、食品工場の建設を手がける企業の担当者らも「現在の水素の供給量では足りない」と口をそろえる。
一方で工場ほどの規模ではないが、オフィスビルや管理棟などで水素を活用する試みが始まっており、脱炭素化に関心の高い企業から注目を集めている。また、エネルギーの調達をアウトソーシングするサービスで水素を応用できないか模索する動きもある。
（次号につづく）