食品工場の総合エンジニアリングで高まる存在感
創設50年を迎え新たな成長ステージへ
中設エンジ 代表取締役社長 松本吉晴氏

      松本社長

 創設50年を迎えた中設エンジ(本社名古屋市)は食品工場全体を1つのパッケージとしてプランニングを行うトータルエンジニアリングを強みとし、顧客企業からの困難な課題にも持ち前の粘り腰の強さで対応するなど、エンジニアリング業界で異彩を放つ。業績は4期連続最高益を達成したが、松本社長はすでに次の50年を見据えて新規事業の領域開拓に着手すると共に、社内改革を推し進め、次世代を担う社員の育成にも取り組む。「社員1人ひとりの力を底上げして会社の総合力を高める」と成長ビジョンを示す。

 ――トータルエンジニアリング企業として存在感が高まっている。
 松本 伊藤忠商事と名古屋鉄道グループの合弁会社として1968年に設立し、昨年50周年を迎えることができました。設立当初は空調や給排水衛生、電気設備工事を手がけていましたが、約40年前から食品工場の設計施工に進出し、コンビニベンダーなどの受注を請け負ってきました。現在は売上高の約9割を食品工場が占めます。
 当社はお客様の要求事項に合致した生産ラインを検討し、その稼働を意識して工場建屋の建築、空調、給排水衛生、電気設備を含めた工場全体のプランニングを行います。これら全ての設計施工からアフターメンテナンスまで一貫して提供するトータルエンジニアリングが強みです。このサポート体制はおそらく当社だけでしょう。 
 ――最近のトレンドは?
 松本 得意分野はコンビニで扱っている弁当、惣菜、サンドイッチなどのベンダー工場や製菓・製パン工場、和洋菓子工場が中心ですが、最近はカット野菜工場や医療・福祉食工場、スーパーのプロセスセンター(PC)など対応領域が拡大しています。受注規模はいずれも20〜40億円程度です。
 特にベンダー工場やPCの改修増設の需要が増えています。この場合生産ラインを止めずに施工することが求められます。非常に複雑な工事ですが、動線計画やリスク回避策を検討し、生産設備の移動や設置、間仕切り工事などを順次行う方法でリニューアルを実現しています。
 また、近年は建設する案件が大型化しており、それに伴う衛生水準の高度化、生産設備の省人化、自動化ニーズに対応した企画提案を行っています。
 ――日清医療食品のヘルスケアフードファクトリー亀岡は、大規模施設ながら省人化に成功したことで注目を集めた。
 松本 1日10万食生産する国内最大級の医療・福祉食工場です。連続加熱冷却システムや製品箱詰めロボットなどを導入し、800カ所に配送するためマテハンにはソーターシステムや自動倉庫、無人搬送車(AGV)を配置して省力化を図り、通常必要とされる人員の半分で稼働できるようにしました。

タイ現地法人を2017年設立

 ――新中期計画(2018〜2020年)では海外展開を重点テーマの1つに策定した。
 松本 2017年12月にタイに現地法人CHUSETSU Engneering(Thailand)Co.,Ltd.を設立しました。人員構成は日本人エンジニア2名、現地社員7名、うちエンジニア4名です。日系食品メーカーのタイ進出を支援するため営業を推進しています。すでにいくつかの話をいただいております。
 タイも日本同様に少子高齢化が進んでいます。社会が成熟すれば出生数が減り、高齢者が増える。食品分野では安全・安心の要求が高まり、医療・福祉食の需要も増えてくるはずです。日本国内で培った経験やノウハウを活かし、早期に営業基盤を確立すると共に、タイを起点に周辺国に拡大していく計画です。
 ――働き方改革もテーマに掲げている。
 松本 2021年までに施工現場を含めて完全週休2日制を実施します。「生産性向上委員会」を3年前に立ち上げました。作業ムダをなくし、長時間労働の改善を進めています。若い人材を確保するためには必要です。
 それと女性が活躍できる職場環境づくりにも取り組んでいきます。私が社長就任後は女性エンジニアを積極的に採用してきました。多くの食品工場で働く従業員は8割以上が女性です。深刻な人手不足を背景に、工場では働き手を確保するため清潔な休憩場所やパウダールーム、ロッカールームを設置する動きが広がっています。やがては女性エンジニアが設計して、女性がさらに働きやすい食品工場の建設を進めていきたい。現在は女性エンジニアの割合は1割程度ですが、今後増やしていきます。

植物工場、陸上養殖など新分野研究

 ――これからの50年に向け、どのような将来ビジョンを描く?
 松本 これまで取り組んできた食品工場のトータルエンジニアリングをさらに強化し、「食品業界におけるトップブランド」をめざします。そのためにAIやIoTを取り入れた付加価値の高い企画提案を行うことで、お客様の生産性向上に寄与します。
 そのうえで第二の収益基盤となりうる新しいビジネス構築の必要性も感じています。
 ――具体的にはどのようなこと?
 松本 注目しているのは植物工場と陸上養殖です。植物工場は当社でもいくつか施工実績がありますが、天候リスク回避と野菜の安定供給を目的に建設需要が今後伸びるとみています。
 陸上養殖は欧州が先行していますが、日本国内でもサーモンの養殖などが始まっています。施設の空調や給排水、水温、電気、自動給餌などは当社技術でも対応できるため、可能性を探っています。
 このように当社が食品工場建設で培った技術で発展可能な分野がないか、それ以外にも将来の社会・環境動向の変化に貢献できることはないか、今後のトレンドを見据えて探索、検討を続けていきます。
 ――社内改革も進めていると聞く。どのようなことを?
 松本 2013年の社長就任後に直轄の「受注力強化チーム」を立ち上げ、営業マンコンテストを年1回行っています。
 筆記試験と営業の実技試験を行い、実技においては営業部の社員が我々役員の前で、お客様役の幹部社員を相手に営業トークを展開します。
 ――どうしてコンテストを?
 松本 当時、社員たちにはコミュニケーション力が足りないと感じました。社内の一体感に欠けているようにみえた、そこで「スマイル&コミュニケーション」を行動指針に掲げ、社員の意識改革を進めました。コンテストはその一環です。
 第4次産業革命とも言われるデジタル変革は我々に大きな変化をもたらします。新しい時代で求められるのは創造力。社員1人ひとりの考える力を底上げして会社の総合力を高めることが重要です。
 我々は会社の規模を追い求めるのではなく、日々進化し続けるという意味での一流企業をめざします。

(まつもと・よしはる)1951年10月大阪府生まれ。1975年伊藤忠商事入社。エネルギー総括部、原重油部を経て2000年広報部長代行。2003年広報部長。2006年執行役員。2008年名古屋支社長。2013年中央設備エンジニアリング社長就任。67歳。神戸大学経済学部卒。