㈱シスコムは主に生鮮食品の流通・加工業を対象に生産性の調査分析、生産システムの設計、情報システムの開発などを行なっている。一般に、多品種を扱う生鮮食品の流通加工センターは生産性が課題となるケースが多い。
金治社長は多品種少量作業現場用作業測定方法であるTK法を提唱してその改善に取り組んでいる。近年は量販店のセンターが再び脚光を浴びているが、「センターを作るだけではだめ。センターのシステムが重要。レベルの低いセンターを作ったのではかえって足かせになってしまう」という。
金治社長
――量販店のコンサルタント業だが。
金治 長年コンサルタントをしているので量販店が利益を出すノウハウを持っている。そのノウハウがあれば1000億円クラスの量販店なら年間4000万~5000万円の利益アップが実現できる。
――それは是非聞きたい。
金治 つまり卸の中抜きができるということ。これで売上げも利益も伸びる。私の顧客は現に売上げも粗利も増えている。
――仲卸のことであるなら卸売市場法の問題がある。また、以前、問屋不要論がクローズアップされたことはあるが、卸は今もなくなっていない。
金治 卸が完全に不要だというのではなく、機能を振り分ければいいという考えだ。なぜならば量販店は昔と異なり、大きくなりすぎている。生産者も大きくなった。卸が発生した当時のように中小の店と生産者をつなぐという卸本来の役割はなくなっている。
――量販店もメーカーも寡占化が進んでいる。
金治 大きくなったスーパーは、自社で直接仕入れると、その商品が値上がりしてしまう。だから地方の量販店の東京進出が起きている。地方の大手量販店は「当社の物量が大きいから卸は大量仕入れが成り立っているのに、小規模の店と扱いが同じなのは納得がいかない」と考えるところもある。それなら量販店は自社で仕入れればいいではないか、ということになる。それができないなら市場の原理に従えばいいと。
――それはそうだ。
金治 ある地方のスーパーは青果を卸から直で仕入れようとしたが、仲卸が大反対してできなかったことがある。しかし、そのスーパーは青果と鮮魚部門が大赤字だった。私がコンサルタントを受けた時は、芯があるなすや鮮度の悪いきゅうりが店に並んでいた。地域の市場の四割を占める量販店なのにだ。
――それでは売れるわけがない。赤字になるわけだ。
金治 早速、鮮度の悪い野菜は返品するように指示した。ところが、卸は「うちにはそんな野菜しかないのだから仕方がない」という。ないならいいものを仕入れろと改善を求めると「自分で仕入れろ」という。
――売り言葉に買い言葉だ。
金治 そこで、トラック12~13台を連ねて東京市場まで買い付けに行った。東京の品質のいい野菜を仕入れることができた。運送費はかかったが、市場手数料や仲卸の粗利を差し引けば高コストではない。次年度から黒字に転換した。既存店売上げも増えた。もう地方の仲卸には仕事が戻ってこないだろう。4年前の話だ。
――小さな八百屋ではできない。
金治 そう。だが大手ならできる。その地域では仲卸の決起集会が行われ、量販店の社員をどうにかしてやるという不穏な言動まで出た。そこで量販店のバイヤーを全員更迭した。
――それはまたなぜ?
金治 もしも危害を加えられたら大変という人道的観点からだ。しかし、それでも売上げは伸びた。では、バイヤーはどんな仕事をしていたのかということになる。
――しかし、物が売れない時代。量販店は今も利益が厳しい。
金治 仕入れの話から入ったが、私のノウハウの重要なところは加工センターの仕組み作りにある。小売店は生鮮3品と惣菜をバックヤードで加工している。肉のトレーパック詰めなどだ。しかし、肉などは日商30万円以下だと、バックヤードではむしろ効率が悪い。そこで、センターで加工して、インストア要員はパート1名にするとどうなるか。加工などの技術が必要だとパート化は難しく、工賃も発生するが、売るだけならパートでOkだ。その仕組みにすれば利益が出る。ところが、今までは刺身のアウトパッキングは不可能だと言われてきた。冷凍ならともかく、チルドの刺身は難しかった。ところが、私は沖縄の量販店でこれを実現している。今では沖縄以外の量販店でもこの仕組みを導入し始めた。
――量販店は加工を大規模化すれば利益が出ると。
金治 国としては、その仕事を卸にして欲しかった。15年間も前からそういう動きがあったのに、卸はチャレンジしなかった。だからスーパーがする。卸が補助金事業で加工センターを手がけたものの、失敗といえる例もある。沖縄の量販店のケースは地域的に寡占化できたから成功したという面もあるかもしれないが、先ほどの刺身のアウトパックは首都圏でも始まっている。大阪でも9月からスタートする。アウトパックが100%できれば、小型店なら10%は経費削減できる。こうなるとライフルと火縄銃の戦いのようなものだ。
――しかし、センターは昔からある。
金治 センターを作るだけではいけない。システムが重要なのだ。ある量販店は1日5万パックのセンターを2つ持っていた。つまり日産10万パックの需要があった。それを日産16万パックのセンターを新設して統合したら、売上げは6万パックに減ってしまった。つまり、新パッキングセンターのサービスレベルが20年前に立てたセンターより落ちていたということ。レベルの低いセンターを建てても足かせになるばかりだ。
――なぜ、レベルが落ちるのか?
金治 大手食品メーカーでさえ、IE(生産工学)を持っていない。作業測定法すら知らないところがある。日本は国際的な技術力が落ちたとマスコミが報道することがあるが、20年前の自国と比べても落ちているところがある。IEそのものは昔からあるのだが、その分析はものすごく大変だ。当社では多品種少量作業現場用作業測定方法であるTK法を提唱し、そのツールである「仕事測る君」を発明した。これを手始めに「動作測る君」、「無駄測る君」、デジタルカウンター「デジカウント君」など一連の作業測定ソフトを品揃えした。
昔はストップウォッチやビデオで作業を分析していたが、「仕事測る君」を使えば簡単にどの作業にどれだけ時間と人手がかかっているかがわかる。生鮮食品の製造加工工場、各種配送センターの作業標準作りと、生産性改善に活用している。
――トヨタやキャノンの生産方式は世界でも一流といわれたが。
金治 トヨタなどはすばらしいノウハウがある。現状の自動車産業が厳しいのはまた別の問題だ。食品関係は遅れているということ。
――食品関係では、具体的にどのような改善を?
金治 ある食品問屋のピッキングだが、商品に納入先などを記したシールが貼ってあり、作業員は自分が必要な商品が流れてくるまで、ずっと商品のシールを見ている。必要な商品が10個中1個しか流れてこないとすれば、9個のシールを見続けているのはむだな作業だ。ピッキングルーム内を作業員が歩いて必要な商品を集める場合、注文の順番に集めれば、棚から棚へとランダムに動くことになる。歩行距離を規準にした順番で集めれば、効率は良くなる。そうしたことができていない。作業測定を行なえば、どの作業にどれだけ時間と人手をかけているかが一目で分かり、改善につながる。
――なるほど。
金治 作業測定をしたところ、朝はあまり仕事がないということがわかったことがある。その場合、始業を1時間遅くすれば、残業が減る。
――測ってみないと、意外とわからない。
金治 よく指摘されるのが、効率の専門家は衛生対策に対する意識が不足しているということ。これなども、作業を測ると23.8%が洗浄などの衛生管理に費やしていることがあった。衛生は重要だから仕事を削れないというのはわかるが、いくらなんでも工数をかけすぎているという問題提起はする。どこまでなら衛生面で問題がないのかは、その企業が検証すればいいこと。洗浄は切り替えと、昼休み休憩の後だけで十分であると結論が出たなら、そうすればいい。ある会社はこれだけで衛生にかける作業が23.8%から10%以下になった。1日で15%の改善だ。
必要最小限がどこにあるのか、あくまでも定性ではなく定量的に見る。定性、つまり社長が「衛生に気をつけろ」と言えば、従業員はいくらでもする。本来は、ここまででいいという説得力のある定量的な指針が必要だ。実際、食品の事故が騒がれるたびに生産性は落ちていく。
――行き過ぎた衛生を買い手が求める風潮も問題では?
金治 あるパッキングセンターでは、安価な肉の切り落としをきれいに並べてパッキングしていた。「そこまでする必要があるのか」と聞くと、従業員は「そうしないと店が受け取ってくれない」と反論する。「どこにきれいに並べろという商品仕様書があるのか」と聞くと、ないという。受け取らないなら、放っておけばいい。それだけ生産性が高まる。もちろん、きれいに並べろという仕様書があってもいい。だが、それならきれいに並べる分の工賃をいただきますとすればいい。それをしないからお互いに利益が出なくなる。