野口正見の「5S活動による食品工場改善」 −38− 【最終回】
掃除に学ぶ(2)

 一倉定という伝説的経営コンサルタントの先生がおられた。経営指導歴35年、あらゆる業種、業態に精通、5000社に余る大・中・小企業の社長を指導し、その企業を蘇生させた方である。
 先生曰く「環境整備こそ、すべての活動の原点である」、「環境整備には、いかなる社員教育も、どんな道徳教育も足下にも及ばない」と。
 環境整備とは、規律、清潔、整頓、安全、衛生の5つを行なうことである。5Sと気脈の通ずるものがある。指導を受けた社長達は知っているようで知らなかったそうである。
 武芸、芸事、大工、左官など修行の第1歩は『掃除』だった。傲慢な社長に対して指導の第1歩は便所掃除であった。指導を受けた社長は一生懸命掃除をしたが、終わってよいという指示はなかった。そのうちに社長は翻然と社員、顧客に対する傲慢さを悟り、謙虚になり、社員、顧客の話をよく聞くようになり、業績は急速に回復したという。先生は長年の経験から掃除の不思議な力を知っていたのである。(一倉 定の経営心得・日本経営合理化協会出版局より)

思い出横丁

 新宿に「思い出横丁」という飲み屋街がある。終戦直後の闇市の雰囲気を残し、年配者にはなつかしいが、汚かった。
 あるとき、汚いトイレが改装されてきれいになった。女性専用もでき、女性の客が増えていった。さらに外国人観光客も見受けられるようになった。路地には煙草の吸殻も少なくなり、掃除の力、清潔の威力を感じた。

「思い出横丁」にも女性専用トイレができた

 筆者は現役引退後、近隣の道路を掃除するようにした。掃除を続けるうちに奥様方からあいさつと掃除のお礼(ありがとうございます)を言われ、顔見知りになった。毎朝散歩のおじさんは4年越しでやっと「ご苦労さん」と声をかけてくれ、うれしくなり、友達になった。
 家の周り約400mほどを週2回ほどのペースで掃除したが、1回サボルと掃除の時間は3倍近く長くなった。先送りは能率が悪くなる事の身近な見本であった。掃除した後は道路も輝いて見える。空き巣の被害にあったといううわさは聞かなくなった。防犯の効果もあるようだ。
 掃除は感動を与え、『日本を美しくする会』のように拡散していく。感動は感じて動くことである。3月11日の東日本大震災追悼式をテレビで見ていて、大手術直後の天皇陛下が心温まる追悼文を読み上げられ感動した。すぐに国立劇場へ一般の供花に出席し、犠牲者のご冥福と、1日も早い復興に祈りをささげた。「感じて動いた」を経験した。

 掃除は人を変える力がある。掃除の共同作業はすぐに結果が見え、その輝きは参加した人に感動を与え、謙虚になり、協調性が高まり、人格が磨かれる。このような職場からは安全で、安心して食べられる食品が生産されると確信している。「整理⇒整頓⇒整然」と「整理⇒清掃⇒清潔」が合わさって「輝く美観」を呈し、この流れを維持するのが「躾」である。そのエンジンは「掃除」である。

 5S活動による食品工場改善に関する拙文にお付き合いいただきありがとうございました。いくばくかの参考になれば幸いです。食は命の元です。ご健闘をお祈りしております。 野口 正見

自宅の近隣を掃除する筆者