“失敗”から生まれた受賞機種
大森機械工業 S−5600A−BX−BIF(「エッジシール装置」搭載)
(Japan Pack Awards2011 日本包装機械工業会会長賞 受賞機種)

 大森機械工業が新たな包装形態として開発したのが、主力の高速横ピロー自動包装機に搭載できる「エッジシール装置」。この装置を通って仕上がるピロー包装は“角”がきれいに描かれ、デザイン性が増す。“失敗”から開発のプロジェクトが始まった。

 通常のピロー包装と違い、包装袋の4辺の角にシールを施す。これにより、角がきれいに描かれ、デザイン性が増すのだが、似たような包装形態は以前からあった。美しく完成させようとする菓子の包装用に使われていたものがあったが、その方式では、あらかじめエッジシールを施した包装袋に人の手で内容品を詰め、シール機にかけていた。
 それを同社は1本の原反のフィルムから自動包装機で仕上がるように開発した。ピロー包装とエッジシールが1つの包装機でできるようになり、しかも高速で処理できる。
 また、従来の方式ではシール部は幅が5mmほどあるものがほとんどで、この部分は2つに折り返しているので実際には1cmほどのフィルムを使用していたことになる。
 しかし、同社の「エッジシール装置」では、この幅を1mmに仕上げることができる。
 「実はこの1mmというのは、初めから狙っていたわけではありませんでした。そもそもエッジシール装置自体も偶然の産物と言っていいでしょう」と語るのは、包装機械設計士である技術生産本部(第2事業部第2機械設計部)の上原浩主任。この装置を設計した本人だ。「本来製作していたものは“折線装置”だったのです」という。

角がきれいに描かれ、デザイン性が増す

ピロー包装袋のサンプル

 「折線装置」も角がきれいにできるようにする装置で、デザイン性を訴求する商品に使用されるが、こちらは以前からあった技術。出来上がる直方体の製品は立たせることができるため、店頭での陳列に役立てられる。また、もともと箱詰めにしていたものを、この直方体の袋に包装する動きも普及している。
 「本来は、その角をさらに際立たせたいと折線装置の製作に取り掛かっていたのですが、出来上がる包装品の角が1mmほどくっついてしまいました。きれいな直角を描きたかったのです。“失敗した! もう一度やり直さなければ!”と思っていたところ・・・」(上原主任)。
 「これは面白いじゃないか」と大森利夫社長が声をかける。製品化への第1歩となった。
 「横ピロー包装とエッジシールが1つの機械でできるかもしれない」と、たまたま出来たのではなく、今度は安定して作れるよう設計を試みる。しかし、上原主任が最初に手がけたものはシール部の幅が5mmほどになった。すでにあるものに近付けようとしたためである。「そうではない。私が感心したのは、“あの幅1mmのシール部”。他にもある幅5mmを何も真似る必要はない」と大森社長。
 幅5mmには1cmほどのフィルムを使用している。それが4辺あるので、実際に袋になっていない部分、つまりデザインのために必要としたのは4cmということになる。それだけフィルム代がかさむことになるが、ユーザーはシビアな判断を下すだろう。1mmだからこそ価値が生まれるのだ。
 作るべき装置の方向性が定まった。2010年暮れのことだった。

設計と製造、10年振りのコラボ

田嶋リーダー(左)と上原主任
(埼玉県越谷市の同社工場にて)

 下組みをする協力メーカーから機械の土台が同社に到着したのが、2011年4月。ここから部品の変更や細かな調整に入り、機械の完成に向けてひた走る。しかし、時期は東日本大震災の影響が依然として色濃く残っている最中。「資材や包材がなかなか入ってこず、限られたフィルムの中でテスト運転をしなければなりませんでした」と技術生産本部の田嶋智紀リーダー(第1事業部第1製造部)は振り返る。
 設計を担当する上原主任と製造の田嶋リーダー、実はこの2人、10年振りにペアを組むこととなった。
 10年前、東海地方にある大手製菓メーカーの工場の新ライン立ち上げという大きなプロジェクト以来の“共作”だ。今回の新機種開発にも自ずと力が入る。
 「ずいぶんと部品を作りました。なかなかうまく運転できず、後から変更を重ねることもありました」(田嶋リーダー)。季節が夏から秋に変わる頃、ようやく納得のいく機械が完成した。
 「機械の出来に社長も満足してくれました。当初予定していなかったジャパンパックにも急きょ出品することになりました」と2人は語る。完成した機械はすでに納入先が決まっていたので、すぐに展示用にもう1台を作らなければならない。戸惑いながらも、手は休まない。そんな2人を大森社長自らが労った。
 “次の1台”も開催間際に無事完成し、ジャパンパックで披露する。“失敗”から始まったプロジェクトが、“新しい包装スタイル”という姿に形を変え、多くの人の目に触れることとなった。

ジャパンパック2011に出展した「エッジシール装置」搭載の
横ピロー包装機「S−5600A−BX−BIF」