味覚センサは勝率高い営業ツール
導入1年、新規やリニューアルにも「好感触」

 三本コーヒー(横浜市)は味覚センサを商品開発やプレゼンに活用している。センサを導入して、8月でちょうど1年。その利用はコーヒー業界では後発だが、「新規の案件にも、既存ユーザーがコーヒーの味をリニューアルする時にも、提案の後押しとなっている」(同社)とし、商機を逃さないツールにしている。

(左から)企画部の蒲谷聡部長代理、研究所の植木理香主任、
山口章室長、 植木主任は味覚センサを日々操作している

 同社の販売先はホテルや喫茶店など業務用がメイン。特に外資系のホテルには、同社が製造するコーヒーの採用率が高いという。こうしたユーザーはオリジナルのブレンドを求めることがほとんど。その要請に応じるためには、ユーザーが希望する味を正確に表現しなければならない。
 コーヒーの世界は奥が深い。喫茶店のオーナーは職人気質の人が多く、各コーヒーメーカーのブレンダーはユーザーの舌を納得させるのに神経を尖らせているほどだという。

 新商品のコンセプトをどうするか――。メーカーとユーザーのミーティングが始まる。
 コーヒー1つとっても、酸味が効いたもの、苦味を強くしたものなど味は様々。このミーティングの場で、ユーザーから「酸味(あるいは苦味)を“ちょっと”強くしてほしい」という要請が出てくる。
 しかし、この“ちょっと”というのが当事者泣かせのクセモノ。この表現が意味する加減は人それぞれ。関係者全員が理解できる共通の指標を得るには苦労がある。
 また、コーヒーの味の査定は2、3杯が限度。何杯も続けた査定では舌が正しい判断ができなくなってしまう。商談までいけばいいのだが、コンペティションは一発勝負。順番が決められ、何杯もの競合品と比べられる。1つ前の競合品が苦さを際立たせたコーヒーを出せば、自分たちが酸味の効いたコーヒーを提案しても、その苦さの影響が残り、判断力の正確さに左右しかねないこともあった。
 さらに、味の決定権を持つ人に従うという傾向も。決定権のある人が「このコーヒーは酸味が強い」と判断を下せば、他のスタッフは違う味覚を感じていながらも、それに従わざるを得ないということがよくあることだという。これも味覚に対する科学的な共通の指標がないために、陥る現象だった。
 こうした事情から、同社が自信を持ってブレンドしたコーヒーでも、その味覚を正しく理解してもらえないという諸問題が存在していた。
 必要なのは、味覚を視覚化できる、共通の指標そのものだった。

同社が使用している味覚センサ

 同社が使用しているのは、インテリジェントセンサーテクノロジーが開発した味覚センサ。センサで示したデータとは、分布図のようなものがあり、酸味や苦味など、その製品の味の特徴を位置で示し、他の商品との位置関係を把握する。
 センサ分析による自社の既存品や他社の競合品をポジショニング、マッピングすることで市場解析や新製品の位置づけの確認、繁盛店などターゲット商品との比較を可視化する。
 例えば、好ましい味を目標とする商品がある。そこに近づける位置関係を明確にさせる。官能評価に加え、センサ結果による客観的、視覚的表現がバイヤーにプレゼンする際など有効な参考資料となる。ただ、“違いがある”という解釈ならば機器だけでもできるが、“何が違う”のかは機器だけでは十分な判断がつきかねない。そのとき、人の評価が前提としてあれば、分布図の説明にも説得力が出てくる。

 味覚センサは20年ほど前から開発されているが、初期の利用者は公共の研究機関や大手食品メーカーの研究所がほとんどだった。味覚センサのデータを商談の場など取引先に掲示し、ビジネスに活用するケースはごく最近のこと。調味料メーカーがその先陣を切った。
 コーヒー業界でも5年ほど前から味覚センサを導入したメーカーがあったが、その用途は研究目的が主体だった。5年ほど前というのは、実は同社でも味覚センサを導入しようと一部で動き出していたのだが、時期が合わず、断念していた。

“取りこぼし”がなくなった

味覚センサを操作している様子
商品開発やプレゼンに欠かせない存在となった

 一度は導入を見合わせた味覚センサを、検討しようかという機運が社内で再び高まった。それが昨年。検証を重ね、同社の食品安全・開発研究所に8月導入した。以来、味覚センサで証明したデータをユーザーに掲示し、自分たちが提案するコーヒーの味がどのような特徴があるのかをわかりやすく説明している。
 データを掲示することで、相手先にあらかじめ味覚のイメージをある程度持ってもらう。そうすることで、1つ前に飲んだコーヒーの味がリセットされ、味覚の正当な評価に繋げることができるという。コンペティションのような一発勝負の時に、特にその威力を発揮している。
 「味覚センサを活用して以来、いわゆる“取りこぼし”がなくなりました」。同社食品安全・開発研究所の山口章室長はこの1年をそう振り返る。一番緊張感が走るのが、既存のユーザーがリニューアルしたいという時だという。
 「このリニューアル時に、当社がブレンドしたコーヒーの傾向を、味覚センサのデータとともに掲示しています。そのおかげでユーザーは正当に味覚を評価し、引き続きのお付き合いをさせていただいています」と説明する。このリニューアル時に、不十分なプレゼンをしてしまっては競合メーカーに販路を許してしまいかねない。勝てるはずの勝負に負けてしまう=取りこぼしは絶対に避けたいところである。

 ホテルに強いという同社。味覚センサを使ったプレゼンが関西の外資系の老舗ホテルに結果を残したほか、今年オープンしたばかりの2軒のホテルでも採用が決まった。「幸先のいいスタートです」と笑みを浮かべる。
 ホテルだけではない。全国展開している総合ディスカウントストアでも留め型商品として商談を成功させることができた。しかも、そのパッケージには味覚センサのグラフを記載しており、消費者はそのコーヒーの味覚をより理解することができるようになっている。また、売上げ好調な地方スーパーとも商談を進めているという。
 ホテルや喫茶店など業務用がメインの同社だが、量販店や小売りという新たな販路を確立しつつある。この接点を契機に、こうした売場に同社のナショナルブランドを展開させたいと次なる目標を見定めている。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年8月6日号掲載