伊藤ハム米久ホールディングスは大阪大学大学院工学研究科などと「培養肉未来創造コンソーシアム」を3月29日設立し、記者発表を行った。大阪大学が開発した3Dバイオプリント技術を活用して食用培養肉を開発し、社会実装を加速させる。島津製作所、凸版印刷、コンサル大手のシグマクシスとの産学連携による取り組み。各社の知見や技術を活かし、培養肉の製造から物流・販売までバリューチェーンを早期に確立する。
まずは2025年開催の大阪万博までに試作品の開発に目途をつけ、「大阪ヘルスケアパビリオン」では来場者に試食してもらうことを検討する。大量培養技術の確立やルール整備などを含めた社会実装を30年までにめざす。
培養肉の研究開発は国内外で進んでいる。すでにハンバーガーのパテやフォアグラなどが開発されているが、加工形態が多い。今回の協業では「和牛」の細胞を培養してブロック状の生肉を開発する。海外でも高評価を得ている和牛由来の培養肉を作ることができれば、高い市場価値が見込める。
和牛由来の食肉細胞は伊藤ハム米久が協力工場などで採取し提供する。島津製作所が3Dプリント技術を応用した培養肉自動生産システムや培養に欠かせない培地を開発する。凸版印刷はバイオインク(つなぎ材)の可食化や筋・脂肪組織の再現性向上に取り組む。
伊藤ハム米久は培養肉を組織化、成熟化するための周辺技術の開発推進に加え、喫食の安全性評価、官能評価といった重要な役割を担う。流通・販売方法の検討も行う。
3D細胞プリントで作成した培養肉(松崎教授提供)
プロジェクトを主導する大阪大学の松崎典弥教授は会見で培養肉を実際に食べたかどうかを聞かれ、「安全性評価の段階のため、まだ食べていない。ただ、和牛は(おいしさと関係が深い)オレイン酸含有量が多く、培養肉も同程度あることは確認している。アミノ酸や香りも分析中だが、おそらく満足いく味が得られるだろう」と期待を示した。
培養肉は人口増加によるたんぱく質の需給バランスの崩壊、環境問題、食料安全保障などと絡めて注目を集めているが、社会実装までには安全性の担保やコスト面、消費者の受容性など課題は多い。特に法規制の整備についてはまだ何も始まっていない。コンソーシアムでは関係省庁や企業と連携して法整備も働きかけていく。
コンソーシアム設立に合わせて大阪大学と伊藤ハム米久、凸版印刷は「培養肉社会実装共同
研究講座」を開所した。写真は記念式典